ケイジャンチキン
タイトルの由来はイギリスの解散したバンドだ。ちなみに聞いたこともない。
それはそれとして、今回はケイジャン風味のフライドチキンを作る。料理としてはスパイシーが特徴で、庶民的な料理だ。スパイシーな炊き込みご飯らしいジャンバラヤもケイジャン料理の1つである。
ケイジャンの由来は「祖先が北米東部のアカディア地方に入植したフランス人の直系で、イギリス人によってアカディアから追放されたのち、最終的に主にアメリカ合衆国ルイジアナ州南部に永住した人々」らしい。
ジョナサンでケイジャン風味のフライドチキンを食べたが、なかなか美味しかった。もちろん辛かったが。
以下にレシピが続く。
レシピ
フライドチキンだ。油を使うという面倒さを除けば単純な料理である。鶏肉に衣をつけて揚げればそれでフライドチキンだ。
ただ今回は作戦を変更する。変更点は2つだ。
まず低温調理器を使う。事前に味をつけて加熱処理を済ませることで、油で揚げる際に内部温度を無視できるようにする。衣だけ揚げればいいという算段だ。
そしてフリッター粉を使わない。バッター液をつけて揚げるだけだ。普通のフライドチキンを考えるとバッター液をつけてからフリッター粉を付着させる。
材料
- 鶏もも肉
- バッター液
- 小麦粉
- 米粉
- 牛乳
- 鶏卵
- シーズニング粉: (目安比率)
- パプリカ粉: 2.5
- ガーリックパウダー: 2
- マキシマム: 2
- 塩: 2
- 黒こしょう: 1
- カイエンペッパー: 1
- オニオンパウダー: 1
- バジルパウダー: 1
- エルプドプロヴァンス: 1
- オレガノパウダー: 0.25
- タイムパウダー: 0.25
調理
- 鶏肉の下処理
- 鶏肉にシーズニング粉を振って味をつける。
- 食塩として鶏肉質量1パーセントが目安量だ。
- ファスナー付きプラスチック袋に鶏肉を入れ、空気をできるだけ抜いて封をする。
- 摂氏75度に設定した低温調理器で1時間湯煎する。
- 鶏肉にシーズニング粉を振って味をつける。
- フライ
- 加熱処理を終えた鶏肉の水気をキッチンペーパーで拭き取り、ボウルに移す。このとき肉汁は捨てない。
- 小麦粉、米粉、牛乳、卵、鶏肉の下処理で出た肉汁を混ぜ衣を準備する。
- 粘度は説明書通りに調製したホットケーキミックス程度かそれより緩いくらいがいい。
- でんぷん粉を鶏肉表面に付着させ、衣をまとわせる。
- フライ油を加熱しフライの準備をする。摂氏200度の高温域まで上げる。
- 準備した鶏肉を揚げる。表面がきつね色になったら完成。
コラム
正直言って味に鋭さがなくパッとしなかった。原因には調味料不足が挙げられる。もっとスパイスと塩を入れていいだろう。というか辛いものが苦手なのに辛いものを作ろうとする時点でおこがましい。
低温調理器による下処理も味を鈍化させた気がする。肉汁が出てシーズニングの味を希釈してしまった。
大量調理においては食感を損なわず安全性を確保する点で恒温槽による下処理は有意義だが、家庭料理ならその必要はない。揚げ物で内部への火の通りを無視できるのは楽かもしれないが、下処理の手間を考えるとむしろ大変だ。
食感もあんまりよくない。衣が思ったよりサクサクしてくれない。バッター液の組成とかき混ぜすぎが原因だろう。
今回の衣は初めて使った。通常なら唐揚げの衣は小麦粉と水、天ぷらの衣は小麦粉と鶏卵と水だ。牛乳の役目は分からない。米粉は経験的に衣をサクサクに仕上げる助けになる。役には立たなかったが。
かき混ぜすぎは小麦粉のグルテン生成を引き起こして揚げ上がりを悪くするらしい。確かにしっちゃかめっちゃかかき混ぜてしまった。
揚げ上がりの目安は衣の色合いで見極める。さも当然のように使われる「きつね色」という表現だ。フェネックだったら全く生で、体毛が黒い狐では炭化してしまう。狐は自分の体毛を仕上がりの参考にしてはいけない。
きつね色への変化はメイラード反応によるものだ。メイラード反応は還元糖とたんぱく質の脱水縮合反応で、有機化合物から水と二酸化炭素が抜ける炭化、いわゆる焦げとは全く異なる。
食品科学でメイラード反応は有名な反応だろう。というかこの他に反応らしい反応を聞かない。衣の変色はもちろん、肉を焼いたときの変色や芳香、しょうゆや味噌の褐色、穀物類のお焦げ、その他いろいろにもメイラード反応は寄与している。
メイラード反応はただ料理を美味しくする魔法だろうか。いや、そうとも限らない。
たとえば中心静脈栄養キット製剤にはダブルバッグが普及している。電解質・ブドウ糖液とアミノ酸液が1つのバッグに隔壁で分断されていて、使用前に手で押して隔壁を破り混合する機構を持つ。
ダブルバッグの理由にはメイラード反応がある。常温でもブドウ糖とアミノ酸でゆっくりながらもメイラード反応が進行して変質してしまい、混ぜたまま保存できない。
だからダブルバッグがない頃は用時混合していたがいちいち面倒だし、たまに取り違えたり忘れたり汚染したりして医療事故の原因になった。
実は電解質・ブドウ糖液とアミノ酸液が一緒になったシングルバッグもあるが、メイラード反応を防ぐために塩酸を添加して酸性にしている。配合変化が気になるし、点滴するとなるとやはり中性付近が望ましい。ちなみにビタミンや微量元素も添加したトリプルバッグやクワッドバッグもある。
もっと恐ろしいメイラード反応もある。それは体内で進行するメイラード反応だ。何もしなくても体内でメイラード反応は起きるが、それは一般に老化と呼ばれる。だが糖尿病では話が別だ。
糖尿病は膵臓がインスリンを分泌できなくなる1型糖尿病とインスリンの効かなくなる2型糖尿病に大別される。日本人が属するモンゴロイド人は2型糖尿病になりやすい傾向がある。日本人男性の糖尿病患者数は特に伸びつつある。多分これからますます伸びることだろう。
ちなみにタイでも糖尿病がかなり問題になっている。タイ人もモンゴロイド人に属していて2型糖尿病になりやすい上に、砂糖消費量がアジア諸国と比べて多い。日本人1人あたり16kg/年の砂糖を消費するのに対し、タイ人は51kg/年の砂糖を消費する。WHOの統計もタイの糖尿病患者数の嫌な伸び方を示している。だからかタイは意外に透析設備が発達していて、透析を必要とする旅行者に優しいという説もある。
糖尿病というと血糖値や糖尿に目が行きがちだが、実際にはヘモグロビンにグルコース結合したヘモグロビンA1cの割合も重要である。なぜなら糖尿病の慢性合併症はメイラード反応が大きな原因だからだ。
体内であふれたグルコースは周囲のたんぱく質とメイラード反応で結合して変性させる。これが大量に起きて神経、網膜、腎臓、血管が破壊される。これは不可逆的な変化だ。
意外と日本で糖尿病は死ぬ病気ではない。しかし血糖コントロール不良となれば合併症で腎臓が破壊されて透析が必要となったり、網膜が破壊されて失明したり、神経と血管が破壊されて壊疽で手足切断を余儀なくされる。更に認知症リスクも高くしてしまう。このように糖尿病の合併症はその人のクオリティ・オブ・ライフを著しく下げる。
だから最近のトレンドは血糖をただ下げるより、糖尿病による合併症進行を抑制しようとする流れが主流だ。まだ治験段階だが色々な新薬が上市されるのを待っている。
糖尿病、特にその合併症は恐ろしい。発症前にできることはバランスの良い食事と適度な運動だ。それでもなる時はなるので専門医の指示の元に治療をしよう。前述の通り糖尿病は死ぬ病気とは言えない、薬で血糖のコントロールが成功すれば合併症に苦しまされず天寿を全うできるだろう。
とか言いつつ私は糖尿病食のようなものは作らないし掲載もしないだろう。この記事のフライドチキンだって糖類と脂質で殺しにかかってる料理だ。もし糖尿病食を掲載したとしたら、その時に私は糖尿病だろう。
参考
ケイジャン
How to Make Cajun Fried Chicken
Cajun Fried Chicken
Spicy Crispy Fried Chicken Recipe | Divas Can Cook
中心静脈栄養キット製剤のリスク・マネジメント
食品におけるメイラード反応
特集 グリケーション―食品から臨床へ メイラード反応
生体におけるメイラード反応の影響
糖尿病治療のエッセンス - 2017年度版
開発中の薬剤―新薬情報―
主要国の1人当たり砂糖消費量
Diabetes country profiles 2016