バターチキンカレーが美味しい
そう、美味しかった。度々食べる機会があって、その度に美味しいと思ったりしていた。マイルドで、辛いものが苦手な私でも容易く食べられる。
という訳でバターチキンカレーを作ろう。北インド由来だとかカスリメティが必須だとか、そういう本場にこだわるより美味しいと思ったときの味にできるだけ近づけることを優先する。どうしたって「本場」の味なんて作れない。
「本場」の味はどうしたって本場じゃないと食べられないからだ。カオマンガイも、タイで食べるのと日本であくせく作るのとでは違う。ちなみにタイの方が美味しいが、これは米の品種と使う鶏の量と部位が寄与しているだろう。
話が逸れた。今回はタイでなく、どちらかといえばインドの話だ。なぜか間違われるが全然違う。
こんな感じのバターチキンカレーができあがる。
以下にレシピが続く。
レシピ
大まかに言えばタンドリーチキンを作って、ルーの作製し、最後に合わせるといった具合だ。
タンドリーチキンには低温調理器を使った。任意の温度を保つ加熱手段として低温調理器使っただけで、摂氏75度で加熱したので低温調理はしていない。この温度には2つの理由がある。
1つめは一枚肉を塩こしょう程度の味付けで処理するなら摂氏55度以上65度未満でも構わないが、肉を切り刻んで様々なシーズニングを施すとなると菌数の初期値が跳ね上がるからだ。
一般に食中毒予防として通用する温度という意味で摂氏75度にした。
というかシーズニングにヨーグルトを使っている時点で菌数が多いどころの騒ぎではない。他の微生物が利用できるリソース的に案外大丈夫な気もするが、ここでは乳酸菌たちに死んでもらおうと思う。
2つめは再加熱をするからだ。低温調理をした肉はその後で再加熱すると食感が悪くなってしまう。これは低温調理器で作ったローストビーフに対して電子レンジを使ってみるとよく分かり、ゴムみたいに弾力性のある食感に変わる。
材料(2人前)
- 鶏もも肉: 2枚
- カットトマト水煮: 1缶
- にんにく: 好きなだけ(すりおろす)
- しょうが: 好きなだけ(すりおろす)
- プレーンヨーグルト: 100グラム
- バター: 50グラム
- カシューナッツ: 40グラム
- 調味料
- カレー粉
- 鶏ガラスープの素
- ガラムマサラ(KALDI)
- パプリカパウダー
- オレガノパウダー
- ガーリックソルト
- ジンジャーパウダー
- 赤トウガラシパウダー
- マキシマム
- 塩
- こしょう
調理
- タンドリーチキンの工程
- タンドリーチキンのためのマリネを作製する。プレーンヨーグルト、すりおろしたにんにくとしょうが、塩、こしょう、マキシマムをボウルで混ぜる。
- 塩気の目安としては鶏肉の質量に対して1%の塩を使うべきだ。
- 用意した鶏肉を一口大くらいに切り、ファスナー付きのプラスチックバッグに入れる。
- 鶏肉が入った袋にマリネ液を入れ、外から優しく揉んでマリネ液を全体になじませる。
- 袋に残存する気体を可能な限り抜いてファスナーを閉じ、摂氏75度で1時間半以上湯煎する。今回は3時間加熱をした。
- タンドリーチキンのためのマリネを作製する。プレーンヨーグルト、すりおろしたにんにくとしょうが、塩、こしょう、マキシマムをボウルで混ぜる。
- カレールーの工程
- 寸胴にバターの半量を入れ、バターを弱火で融かす。
- 焦がして茶色にしてはいけない。
- すりおろしたにんにくとしょうがを加え、匂いが立つまで炒める。
- 焦がして茶色にしてはいけない。
- ティースプーン2杯のガラムマサラを加えてもう少し炒める。
- ガラムマサラはためらわずに入れるべき。ちょっとぐらい多くても問題ない。
- この工程は香辛料の成分を油に抽出する「テンパリング」と言うそうで、この時点でインドインドしい香りが立つ。
- トマト缶を加える。火を中火にする。かき混ぜつつ、一煮立ちさせる。
- カシューナッツを加える。この時点で弱火にする。
- 残りの調味料を加える。
- ガラムマサラを更にティースプーン1杯加える。
- パプリカパウダーを5振り。
- オレガノパウダーを3振り。
- ガーリックソルトを2振り。
- ジンジャーパウダーを2振り。
- 赤トウガラシパウダーを1振り。
- 鶏ガラスープの素、塩、こしょう、マキシマムを味見しつつ加える。
- このときは味見を急がない。塩味はいつだって私たちを裏切る。味見ごとに口をゆすぐべきである。
- 味が調ったら火を止め、別の大きめなボウルに移す。
- ハンドブレンダーでカシューナッツやトマトの塊を粉砕する。
- 裏ごしして寸胴に戻し、弱火で加熱を再開する。
- 寸胴にバターの半量を入れ、バターを弱火で融かす。
- 仕上げの工程
- 低温調理器で作ったタンドリーチキンをにじみ出てきた汁ごとカレールーに合わせる。
- よくかき混ぜながら一煮立ちさせる。
- 残りのバターを入れてかき混ぜる。
- 味見をしてよければ完成。
- ダメなら塩、こしょう、マキシマムで調整する。
トラブルシューティング
Q: なにか足りない。
A: 煮詰めて水分を減らすのが第一選択、それでダメなら調味料を足して調整する。
- ふたを開けたまま煮詰めて濃縮させる。底を焦がさないように弱火かつ継続的にかき混ぜる。
- 甘味料を加える。メープルシロップ、はちみつ、砂糖のどれか、おそらく大さじ1杯くらい。
- 鶏ガラスープの素を加える。味見をしてしょっぱくならないように。
- バターを足す。バターの量は美味しさに比例する。
Q: しょっぱい。
A: 味見には気を付けよう。
- 牛乳で希釈する。
- 一口ごとに塩水を口に含み、味覚を麻痺させながら食べる。
Q: 鶏肉の味が淡白に感じる。
A: タンドリーチキンを仕込んだ時点での食塩量が低いせいだ。でもしょっぱいよりは5000兆倍マシだ。このレシピはものぐさで、鶏肉に下味をつけていない。マリネ液に入れる塩を少し減らして、鶏肉に下味をつけると良いだろう。
Q: 裏ごしが面倒。
A: 別にしなくても死なない。
コラム
トマトの水煮を加えて混ぜているときは酸味を強く感じて不安になったが、ハンドブレンダーでカシューナッツを粉砕したところから劇的な変化があり、タンドリーチキンが合流してから全く別物になった。化学変化みたいに鮮やかだ。
作ったバターチキンカレーは美味しかった。珍しく大成功だ。初めて挑戦する料理はたいてい満足できず失敗に終わるが、このバターチキンカレーに関しては成功と言いたい。
どことなくタイのマッサマンカレーと似ているように感じた。だが、もちろん違いはある。
あまり私は詳しくないが、インドカレーの酸味はヨーグルトで、タイカレーはタマリンドを使う。そしてインドカレーのクリーミーさにはヨーグルトや牛乳だが、タイカレーはココナッツミルクを使う。
私の出自からして身もふたもない話だが、動物性の材料が多めのインドカレーの方が好きかもしれない。カレーとして好きなのはタイのマッサマンカレーだが、相対としてインドカレーに軍配が上がる。というかそもそも、辛いものを食べるのが嫌いなのでカレーが好きではない。およそ辛えもん。
カレーの好き嫌いはともかくとして、香辛料を使っての料理は楽しい。なぜならとても料理をした気分になるからだ。カレーはシンプルな料理ながら、スパイスを使うという点で料理をする充足感が高い。
スパイスを使う料理を作る時の注意点は思い切りとバランスの2つだと思う。スパイスを使う時はケチってはいけないが、使ったスパイスの1つがあまりに突出して香ると不味い。
だからハーブミックスを使って風味のベースラインを作り、その上に強調したい香りを足す方式が理に適っているだろう。失敗した時にはハーブミックスを足せば強くごまかせる。
失敗といえば、私が妙に味見に言及していることにもう気付いているだろう。味見は重要である。料理が下手な人間は味見をしないか、その味見が下手である。私自身がそうだった。
まず味見をしないのは論外だ。料理にはフィードバック制御が必要である。
味見が下手というのは、味覚の認知閾値の問題だ。認知閾値とは変化を認知するために必要な物理量のことで、例えば塩味として塩化ナトリウムならば0.06%変化しなければ味の変化を捉えられないということだ。
味見の流れとしては、まず味見をして不足を感じ調味料を足してまた味見をする。この流れで認知閾値を考えてみると2回目の味見が問題だ。1回目の味見で塩を足し、その量が認知閾値に満たなかったらどうなるか。
味の変化を感じない。
するとまだ不足を感じ、塩を足す。人が何となく加える1回の調味料の量はあまり変わらない。3回目を味見をする。2回目の味見で認知閾値はリセットされているから、まだ変化を感じない。味が不足しているから塩を足し味見をする。それを繰り返して、認知閾値に乱されたまま理想の味に辿り着く。
その料理を少し時間を置いて、味蕾が定常状態に戻ってから食べるとしょっぱく感じてしまう。ギブス自由エネルギー変化に思いを馳せてみれば、水に溶解した塩化ナトリウムは標準状態で元の固体には戻ってくれない。
味見が下手な自覚があるなら、こんなことにならないために味見の度に口をゆすぐべきだ。
また、食生活も味覚に影響を及ぼす。普段からインスタント食品ばかりを食べているとうま味の感覚が鈍ったり、甘い物を頻繁に食べていると甘味の感覚が鈍る。
甘味と塩味は生活習慣病に直結する。日本人は一般に塩分を摂りすぎる傾向にあるという。死ぬ時になるべく苦しまないように食習慣には気を配るべきだ。
参考
How To Make Butter Chicken At Home
世代間における味覚感度の比較
食生活状況と味覚感度に関する研究